染み渡る毒に殺されて〜アマデウス考察〜
主人公である松本幸四郎演じる宮廷作曲家サリエーリ
そして、今回照史くんは「神の寵児」という意味の『アマデウス』をミドルネームに持つ天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを演じた。
・モーツァルト:フランスにおいて芸術などに優れたものに与えられる特別な階級である「シュバリエ」を幼児の頃から与えられた天才
・コンスタンツェ:モーツァルトの奥さん
・ヨーゼフ二世皇帝:音楽好きだけどなんせ頭が悪いのと才能がゼロ
・シュトラック侍従長:皇帝の側近ポジション
・ローゼンベルク伯爵(国立劇場監督):シュトラックと皇帝の仲間であり、目力がヤバい
・スヴィーデン男爵(長官閣下・フーガの殿様):フリーメイソンの熱心な会員。真面目。
以上が主な登場人物だ。
開演5分前。
買ったパンフレットを見たり、ヲタク同士が話したり、双眼鏡を覗いてピントを合わせたりなどする中、舞台上の奥にそっと置かれた木製車椅子にのっそりと老人が腰掛ける。
一瞬劇場がざわつき、そして彼の存在に慣れた頃、
...サリエーリ...!サリエーリ...!サリエーリ...!
ゆっくりと暗くなる会場に
噂話をする声が、物語の始まりを告げる。
*サリエーリの告白
老人の正体は松本幸四郎さん演じる宮廷楽長(超偉い)サリエーリ。現役を退いてめちゃめちゃに老けてる。
30年前にモーツァルトを殺した、許せ君の暗殺を...!と、哀れな大声をあげる。
「梅毒(性病)で亡くなったはずのモーツァルトは、実は宮廷楽長に殺された?何の為に?」
それは退屈な貴族あふれる音楽の街、ウィーン中の噂になる。
その噂の真実について、彼が私たちに告白するというのが大筋。
私たち観客は、200年ほど過去を生きているサリエーリの告白を「未来の亡霊たち」として聞いているという設定だ。
真っ暗な客席が、サリエーリの「姿を見せておくれ未来の亡霊たち!」という思いをのせた歌と共に開演前程の明るさに戻る。
その時に、「おぉ〜見える見える」と嬉しそうなサリエーリ。(ここで3階席まで満員の客席を幸四郎さんに見せれてこちらもなんか嬉しくて客席に一体感が出る)
その後、大好きなお菓子を食べたり、自分についての話をしてくれるサリエーリ。この時点で私たちはサリエーリのことをだいぶ好きになる。なんせちょっとおちゃめな爺さんだからだ。
そして、彼は16歳の頃「社会と神に身を捧げる代わりに音楽で名声をとどろかさせてもらう」という契約を神と交わしたと告白する。
「お菓子が好き」「人生の成功のために神様に祈る」、誰しもが体験したことのある経験が彼の人生の始まりなのだ。
*モーツァルト登場
なんやかんやあってマリーアントワネットの兄貴のヨーゼフ2世(皇帝と呼ぶよ)の宮廷で、気に入られ、成功したサリエーリ。
そこでモーツァルトという元天才音楽少年が成長してやってくることを知る。音楽家とあらばどんな曲を作るのか興味津々で、友人宅で行われるモーツァルトの音楽会に行く。
これがすべての始まりだとも知らずに。
部屋で休憩するサリエーリの存在に気付かずに、やべえヤツらがやってくる。
「にゃお♡!!!にゃーお♡!!!」
「チュー♡チュー♡」
「爪がにゅっ!爪がにゅっ!ひっかいちゃうぞ〜♡!!」
とイチャつくモーツァルト(照史くん)とその婚約者コンスタンツェ(大和田美帆さん)。
桐山担はここで大体「ウッッッ」と声をあげる。
ド美人と桐山照史が「うんこ!」「おしっこ!」とか言いながら、スカートめくりしたり、お尻にチューしたり、足を開いて「パカッ!うぁはははははは!!!」「ギャハハハハ!!!」ってやったりするんだ...
誰だか知らないけど下品で幼稚なことばっかり言うバカップルにマジでドン引きするサリエーリ。
しかしその会話をよく聞いてみると...
モ「トルアツーモってな~んだ?」
サ「(また変なこと言いよって...)」
モ「逆にしてごらんよ」
コ「逆???」
サ「(逆???...え?もしかして???)」
モ「モーツアルト!ギャハハハハハハハ!!!だから結婚したら君はエツンタスンコトルアツーモ!ギャハハハハハハハハハ!!!」
コ「嫌よぉ!!そんなのwwwww」
モ「ダ〜メ〜だ〜よぉ〜〜〜僕は結婚したら全部あべこべにしたいんだ!ほっぺじゃなくてお尻にチュー!!んーまっギャハハハハハハハハハ!!!!ん〜パカッ!(寝っ転がって股を開く)ギャハハハハハハハハハ!!!」
サ「(え????こいつが?!?!?!!!?)」
こいつがモーツァルト?!?!?!?!??!!!
サリエーリ、プチパニック。
これを台詞で表現するのではなく、声を出さずに顔芸だけで表現するサリエーリ(幸四郎さん)がとても面白い。
そんな出会いの直後、音楽会でサリエールは聴いたことのない素晴らしい音楽を耳にする。その作者こそさっきのバカップルのモーツァルト。
「?!!!!?!!!?!!なんじゃこりゃ!!!!!!!?!?!!?!???!!!!」
サリエール、大パニックで屋敷を後にする。
紗幕を用いて星空を表現したセットがめちゃめちゃ綺麗。
自分の前に天才が現れた。
ここで物語のキーワード「神の声」が出てくる。
サリエーリはモーツァルトの曲に自分の音楽には感じれない、「神の声」を感じ挫折し、モーツァルトに会う事を避け、しかしモーツァルトの作品を集める。
しかし、彼が公の場に発表し評価されたものはどれも綺麗だけど退屈なものばかり。
サリエーリは、「そうか...!あれはまぐれか!どんな音楽家にも1曲くらいはあたりがあるというもの...そうかそうか!私はあんな稚拙で卑猥な言葉をいう男にも音楽が作れるということに驚いただけに過ぎないのだ」ととりあえず納得して平常心を取り戻す。
*モーツァルトがサリエーリを知る
宮廷にモーツァルトが挨拶に来る。
(右からサリエーリ、ローゼンベルク監督閣下、ヨーゼフ二世皇帝、シュトラック侍従長、スヴィーデン伯爵)
自分よりモーツァルトが格下だと思ったサリエーリは気分を良くして、モーツァルトが皇帝の間に入場する時に自作の行進曲を演奏しプレゼントする。
厳かな宮廷の雰囲気の中で、いつもの調子で
ピョンコピョンコへらへら、あーーはははは!と振る舞うモーツァルト。
ここでモーツァルトが「宮廷の中で異色の存在である」こと、
モーツァルトの才能と無邪気さゆえの無神経さを印象付けられる。
サリエーリが作曲した行進曲をモーツアルトは
「ん、この音が上手くいってないね!」
無邪気に編曲し
「あ~...良くなった!」と楽しそうに言う。
はちゃめちゃに失礼な行為だが、編曲後の曲を聴いたサリエーリはどこか悔しそうなハッとするような表情をしている。馬鹿なヤツめと余裕の表情で見るほどの余裕はない。
うっすらと心の底で彼の才能は本物だと気付き始める。
ここではモーツァルトという人物がとてもわかりやすく描かれている。
全体的にとてもコミカルで、桐山モーツァルトの軽快さが全開。
ジャニーズアイドルが俳優として舞台に立つ意味と、その中で照史くんというキャラクターが選ばれた意味が見えた気がした。
*モーツァルト最初のオペラ
サリエーリの愛弟子のカテリーナちゃん(ケバい)を主役に抜擢したモーツァルト。テーマはトルコのハーレムでちょっとばかし...エロ。
モーツァルトのオペラは皇帝とローゼンベルク監督閣下(劇場の偉い人)には「音符が多い」と理解されない。
その時モーツァルトは
「(サリエーリさんならわかってくれるはず!)」という目線をサリエーリに送る、
しかし
サリエーリも「理屈としてはその通り」と皇帝の意見に同調。
その時のモーツァルトは
「え?噓でしょ?あんたそっち側の人間なの?」みたいな反応。
少しご機嫌を損ねたっぽい皇帝のことが気になりサリエーリを呼び止めるモーツァルト。
モーツァルトはサリエーリに感想を求める。
実はこの後も、モーツァルトが感想を求めるのは皇帝以外ではサリエーリだけ。
モーツァルトがホンモノであるとサリエーリが気付いているように、モーツァルトもまたサリエーリがホンモノであると感じている。
モーツァルト、オペラ上演で指導をした(実はサリエーリが恋心を抱いていた愛弟子の)カテリーナちゃんに手を出してしまい、しかもオペラ上演が終わった後は投げキス1つでだけしかせずにコンスタンツェの元に戻っていくクソっぷり!
サリエーリは男としてもモーツァルトに嫉妬心を抱くようになる。
そしてモーツァルト、この頃からすでに梅毒に身体をむしばまれている。指揮中やふとした瞬間に内蔵を痛そうにさすっている。照史くんの細かい演技が光る。
梅毒の症状にはいくつかの段階があるが、内蔵が痛み出すようになるまでに感染から潜伏期間含めておよそ10年あまりかかる。当時の医療技術ではもはや治しようがないステージになっているのだ。
この時モーツァルトは26歳。
多く見積もっても16歳で感染したことになるので中々お盛ん。
桐山モーツァルトはめちゃめちゃモテる。女の子の生徒には片っ端手をつける。
だから大きな収入源となる生徒が数人しかつかず、お金が無い。
*堕ち始めるモーツァルト
当時の宮廷楽長の屋敷でパーティーで酔っぱらったモーツァルトはやりたい放題。
どんな罵詈雑言を放っても一生懸命モーツァルトをなだめるシュトラック侍従長閣下。
宮廷音楽をバカにする失礼な態度に困惑して怒ってたのに、モーツァルトがピアノを弾き始めると楽しくなっちゃう侍従長閣下。かわいい(笑)
トルコ行進曲を目隠しされたままで見事に弾きあげるモーツァルト。さっきまでの言動があれど彼はやはり天才なのだ。
しかし、モーツァルトはついに言ってはいけない言葉を言ってしまう。
「閣下もご存知なんでしょう〜?!皇帝が影でなんて呼ばれてるか、『けちけちカイザー!』ギャハハハハハハハ!!!」
皇帝を侮辱することは側近である侍従長も侮辱すること。
そして、それに気づかないモーツァルト。
侍従長閣下はもちろん、それに準ずるローゼンベルク伯爵(劇場管理の偉い人)にも見放されてしまう。
二人は皇帝の娘さんが音楽家庭教師を探しているのを知ってるのにモーツァルトは頼んでも推薦してもらえない。
*モーツァルトの妻への一面
モーツァルトは普段ヘラヘラしてるくせに、めちゃめちゃ焼きもち焼き。
奥さんがエッチなゲームをしてるのを見て今まで見たこともないような迫力で怒る。
「何をしている!!」
「お引き取り下さい...!」
こ〜〜〜〜〜〜〜れが癖に刺さる刺さる!!!!
自分も女生徒に手をつけてることを怒られるモーツァルト、サリエーリには生徒がつくのに女生徒に手を出すから生徒が集まらないと奥さんのコンスタンツェに怒られる。
でもそんなことじゃへこたれないのがモーツァルト。
「だってサリエーリはもうダメだもん!あれは勃たない人の音楽さ、でも?僕は勃つんだ〜〜〜〜♪」って言いながらステッキを股間の前で立たせるモーツァルト。
もう最高に下品。
部屋の死角にある椅子に座って「(ぐぬぬぬっ....!!!)」と悔しそうな様子のサリエーリもめちゃめちゃかわいい。
そしてまたイチャイチャが始まり、耐えかねたサリエーリは頃合を見て姿を現す。
彼にはある目的があった。
サリエーリはコンスタンツェにモーツァルトをエリザベート王女の家庭教師に推薦するための枕営業を求める。
モーツァルトが自分の大事なカテリーナを抱いたように、自分もコンスタンツェを、若くて瑞々しく、モーツァルトに活力を与えている彼女を抱きたくなった。
そしてサリエーリは二人きりになる為にコンスタンツェにモーツァルトの手書きの楽譜を自宅まで持ってこさせる。
ついでのはずだった楽譜に衝撃を受けることも知らずに。
サリエーリはコンスタンツェを脅して嫌がるコンスタンツェにキスだけしかさせてもらえない。
そしてコンスタンツェの帰宅後、モーツァルトが毎回1部しか作らないという楽譜を見て、
下書きの跡がまるでないことに衝撃を受ける。
モーツァルトはただ「頭の中に流れている音楽」を書き留めているだけに過ぎない。
モーツァルトが圧倒的な天才であることを思い知るのだ。
そして気付く。
サリエーリは自分には『耳』しか与えられていないことに。
非凡と凡庸を聞き分けられるのに、自分が生み出せるのはどうでもいい平凡な音楽だけ。
そして自分と天才の違いを実感させられ続ける運命に絶望する。
サリエーリは自分を凡庸と称しながら『非凡な』自分も自覚している。
非凡だからこそモーツァルトの才能がわかるって密かに思っているところが端々に垣間見える。
それを証拠にサリエーリは全幕を通して『神が自分に罰を与えないこと』について疑問は持っても
めちゃめちゃいい音楽を作るモーツァルトが評価されないことに対しては何も疑問を抱かないし、悔しさもない。
「今は評価されなくても、後世に残る音楽」
だと確信しているから。
むしろ、今は誰にも気付かれたくないと思っている。
インディーズバンドのファンみたいな心境だ。
もちろん、モーツァルトを引きずり下ろしたいのだから、当たり前と言えば当たり前だが、そこに「本当に分かってるのは自分だけ」というような優越感とモーツァルトへの執着心を感じさせる。
性欲を封じ、社会福祉に貢献してきたのに、頑張ってきたのに、神は非情な苦しみをサリエーリに与える。
サリエーリはここで
「神を侮るなかれだと?人間を侮るなかれだ!今日より後、私とあなたは敵同士だ!」
と神に宣戦布告する。
今まで信じて、心の芯として置いていたものを失うのはつらい。
私たちの感情移入の先は、神に選ばれた天才モーツァルトではなく常に願望を持ちながらも神に選ばれなかったサリエーリの方にある。
*幕間
休憩に入る前に老いたサリエーリのシーンに戻る。
「膀胱は人間の付属器官であって、未来の亡霊たちには関係ないことだが...ワシのような老いたものにはしばしばお声がかかるものでな」
幕間の休憩は、サリエーリじいさんのトイレ休憩という設定にされる。
舞台と客席を、昔の世界と現在でテレビ電話をしてるかのような感覚に陥れる。
休憩終わりも
客席は明るいまま「シーシーシー...!」って猫を追い払う言葉で入ってくる。
照明が明るいままなのにざわついていた客席が一気にキチンと静かになるのは客席がサリエーリじいさんを好きになっている証だ。
*ただのアホっ子じゃなかったモーツァルト
神に怒りを覚えたサリエーリは今までの生活をやめる。
教え子のカテリーナを抱き「女への誓いもこれでご破算」
貧しい音楽ための活動関係の委員長をすべて辞任「社会奉仕の誓いもパー」
神への誓いとして行っていたことをやめ、グレて派手になるサリエーリ。衣装も水色から金色になる。
一方モーツァルトは音楽を評価してもらえず、モーツァルトの曲は最初こそみんな賞賛するもその後はポイ捨てされる日々。暮らしも貧しくなる一方。
そんな中モーツァルトは「イタリア語のオペラを書きたい」と言い出す。
「本物の人間のストーリが書きたい、伝説物語のオペラじゃなくて!」と主張するモーツァルト。
基本的にその時代のオペラは全てギリシア神話などの伝説物語だった。
サリエーリ、スヴェーデン伯爵、シュトラック侍従長の3人に向かって「今世紀に書かれたオペラは全て退屈でありま~す」
と椅子の上に立って高らかに宣言するモーツアルトにポカーンと口を開けて呆れる3人。
それを見て、さらに「ほらポカーンと空いた口が4つ!これこそ4重唱だぁ〜!」というモーツァルト。
「侍従長閣下はこうお考えだ♪『けしからんモーツァルトめっ!すぐに皇帝に報告しなくては...!』」
モノマネをしながらそれぞれの心情を語るモーツァルト。
これがめちゃめちゃ似ててさすが照史くんという感じ。
そして侍従長閣下とスヴェーデン閣下は本当にそう思ってそうな言葉なんだけれどサリエーリの声は
「下品なドイツ人のモーツァルト!あいつに音楽のことなど何がわかるものかっ」
と声真似をする。
しかしサリエーリは本当は真逆のことを考えている。
モーツァルトはサリエーリの気持ちなんて知るよしもない。
そのあと、モーツァルトはこう続ける
「音楽は本当にすごいんですよ。劇作家ならそれぞれの心情を言葉にして順番に書いていかなければならないでしょ?
でも、音楽は違う。いっぺんに聞かせることが出来るんですよ。しかもそれぞれの言葉をきちんと聞かせながら...!あ、ボク何十分も続くラストを書こう~♪
四重唱が五重唱になり五重唱が六重唱になり重なり合った音は耳の中で混ざりあい全く違う一つの音楽になるんだ!
ハッ!きっと神様もこうやって人々の声を聴いているに違いない!そうだ!これが我々音楽家の仕事じゃありません?民衆の声を音楽に変えて神に聴かせる!
そして観客を神に変えるんだ!!!!!はぁぁぁ..........(想像して幸せそうな顔)..........あ、、、(キョロキョロ)なんつって!ブーッ!!!!へへへへへへ!!!!」
モーツァルトは周りの空気に気づいて茶化すんだけど、サリエーリはすごくハッとした顔をしている。
サリエーリは音楽は『神の声』と表現していた。
モーツァルトは音楽は『神に聴かせる声』と言う。
アプローチ方法は正反対なのに、ここにサリエーリとモーツァルトの共通項がある。
サリエーリとモーツァルトは音楽に対する考えが似ていると気づかされる。
去り際に「皇帝にオペラが出来たとお伝えください」と言ってのけるモーツァルト。
「もうできたのか?!?」
「はい、もう頭ん中に。あとはさらさら~っと書くだけ♪」
サリエーリがモーツァルトの楽譜を見て気づいたことは事実であったのだ。モーツァルトはホンモノの天才。
*監督閣下に嫌われるモーツアルト
ついにイタリア語のオペラを書くモーツァルト。
イタリア人である自分の得意分野を侵されたくないサリエーリはなんとか邪魔しようと監督閣下を巻き込んで上演を中止しようとする。
しかしこういう時に限って皇帝はモーツァルトの味方をしてしまい、画策は失敗。
サリエーリの予想通り、オペラの出来は素晴らしく、完全なる敗北を感じるサリエーリ。
しかし皇帝の好みではなかった為、上演は失敗。
ここでモーツァルトはサリエーリに感想を聞く。
褒め称えるサリエーリ。
評価されなかっただけに、いいものであると褒められれば褒められるほどモーツァルトが悔しいと感じるのを狙ってのことか。
モーツァルトは落ち込みながらも「これはね...オペラの最高傑作ですよ...こんなの他に誰が書けますか?!こんなのかけるの僕しかいないんだいないんだ...!!」と自画自賛。
監督閣下の面目をつぶしてしまったモーツァルトはさらにどんどん仕事を失う。
先進的なモーツァルトの音楽は観客の受けも悪い。
梅毒も進行し追い詰められていくモーツァルト。
もはやサリエーリが何をせずともモーツァルトは落ちぶれる一方。
なのにサリエーリは「あとはモーツァルトに近づいて彼の心情を知るのみだ」とニヤニヤ。
なんやかんや理由つけて結局モーツァルトの作品を聴きたい、彼の傍にいたいサリエーリ。
父親が死に、少し怯えたように「僕にはもう誰もいない」と言うモーツァルト。そばで何かと面倒を見てきたサリエーリの気持ちなどつゆ知らず。
父親が死んで唯一頼れるのは自分だと思っていたのに、なついたと思ってたのに...傷付くサリエーリ。
しかしめげずにサリエーリは「私が君の力になろう」と手を広げて抱擁を求める。
サリエーリを見て、その胸に飛び込むかに見えたモーツァルトはそのまま飛び込まず
「パパぁーーーーーーーっ!!!」と叫んで音楽の世界へ。
目の前のサリエーリではなく、彼の心は音楽で表現する「パパ」に向いていく。
その前にもモーツァルトはサリエーリの抱擁を拒否しているし、握手も無視されるし、神の声を手懐けることが出来ないサリエーリ。
いよいよ困窮し体調も悪く安酒におぼれ「灰色のコートの灰色の仮面の男」の悪夢を見るモーツァルト。
しかし妻のコンスタンツェのことは愛し続け、妊娠と貧困と夫の病気にヒステリー起こすコンスタンツェを抱きしめ、「僕の大事なかわいい奥さん♡」「ほら、このキスどこから来る?あっ、ここにもキスが♡」と精一杯の愛情でコンスタンツェを包もうとする。
妊娠中のコンスタンツェと病気のモーツァルト、互いが互いを心配して自分の毛布を相手にかけ合うのが印象的だった。
このシーンで二人で毛布に車って歌っていた曲が
「パパパの二重唱」
出会って恋をした二人が運命の出会いの幸せをかみしめたり、子供が生まれてくる喜びを分かち合い神さまに感謝する曲。
そして悪夢の中の仮面の男はモーツァルトに「レクイエムを書け」との指示を出す。
現実だと思いつつも、本当に現実かどうか自信がなく、神の使いだと思い込むモーツァルト。
そんな折、フリーメイソンの友愛の精神にのっとって厳しいことを言いながらもなんだかんだモーツァルトの根っこの気の良さを知り支援してくれるスヴィーデン長官閣下。
この関係を壊さないと完全に追い詰めることはできないと思ったサリエーリは
次の題材を「フリーメーソンにしてみたら?」とけしかけ、まんまとそれに乗ってしまうモーツァルト。
魔笛を聞いたサリエーリはモーツァルトは神が吹く「笛」だと表現する。
こんなに弱り果てているのに、いつまで神は笛を吹き続けるのか。
そしてサリエーリの差し金で観に来ていた長官閣下は激怒し、ついにモーツァルトの味方はサリエーリ1人に。
*モーツァルト追うサリエーリ
支援者は誰もいなくなった。味方はサリエーリただ一人。
と思っていたのに、モーツァルトが全然自分のところに来ない。
なぜだ?
噂によるとモーツァルトは窓際のテーブルで必死に曲を書きながら時折窓の外を怯えるような目で見て誰かを待っている様子らしい。
そうだ。私は知っている。モーツァルトが待っているのはレクイエムを書けと言った灰色の仮面の男だ。
モーツァルトが待っているのならば、自分が仮面の男になろう。トドメを指すのだ。
灰色の仮面をかぶりモーツァルトの家の窓の外に行き、怯えるモーツァルトに向かって毎晩指折りのカウントダウンをする。
死ぬほど悪趣味。
そして指折りの指がゼロになった時、やっぱりモーツァルトは思ってた通り自分を部屋に呼び入れた。
モーツァルト自信がかつて作ったオペラ「ドン・ジョバンニ」の中で、「女性3000人切りをしていた色欲魔のジョバンニに生き方を変えるように迫るも、生き方を変えないジョバンニに対して時間切れだと地獄の扉へと引きずり込む石像を、その運命を知らずにオペラへと招待したドン・ジョバンニの言葉」で、灰色の仮面の男をモーツァルトは部屋に招き入れるのだ。
そしてモーツァルトの部屋へ行くサリエーリ。
神のつかいだと思っているモーツァルトは目が合うことを極端に恐れ、怯えながら
「すみません、まだできてないんです。あとちょっとなんです...!」
と途中まで出来上がっている曲をサリエーリに見せる。
その間、子供のころは幸せだったと父親に愛された過去を話すモーツァルト。
「ぁぁ...僕の人生あんなに順調に始まったのになぁ...昔は毎日が充実してて誰もが僕に微笑みかけてくれた、見るもの全てが美しく泊まり部屋はすべて美粧に溢れ、皆がロウソクを灯しぼくの手を引いてピアノの前まで連れていってくれた。
フランスではフランス王女僕に手に優しくキスをしてくれた。
何百曲と曲を作ってきたけど満足いくものなんてひとつもなかった...!!!
ボクの人生はどうしてこんなことになってしまったの...?
そんなにボクが悪かったですか...?
神様の代わりにこたえてください!」
と仮面をつけたサリエーリに懇願するモーツァルト。
その瞬間楽譜を破るサリエーリ。
「素晴らしいっ...、、、っ、、、!!!素晴らしい、、、!!!神の言葉だ..........!!!!!飲み下す...!!!」
と飲み込んでしまう。
口に残ってた切れ端を吐き出し
「...我々は毒を盛られたのだよモーツァルト。君は私に、私は君に。10年間の私の憎しみが君を死に至らしめるのだ』
と。
モーツァルトは目の前の男が自分だけが見ている幻覚ではなく実在する人間だと確信を得て、なにかに気づいたようにそっとサリエーリの仮面を外すモーツァルト。
「...!!!...サリエーリっ...!!!!」
とささやくように驚きの声を上げるモーツァルト。
「そうだ私だ!!!」
驚きと裏切られた悲愴で思わず
「神様、」と漏らすモーツァルト。
しかしもう神など大嫌いなサリエーリがすかさず叫ぶ。
「神?神助けてくれるものか、神は人を助けはしない、」
「神さま、主よ!」
「神は君を愛してはいないのだアマデウス!!!!
君が出来ることは死ぬことだけだモーツァルト!!
死ねぇ!死んでくれ!私の目の前から消えてくれいなくなってくれ...!!このまま私を一人にしてくれ!一人にしてくれ!!!」
怯えて机の下に逃げるモーツァルト。
机を叩きながら叫ぶサリエーリ。
叩かれるたびに怯えていたモーツアルトの目がどんどん変わっていき、怯えるリズムが、呼吸が浅く早くなるモーツァルト。
それが最高潮に達した時、
「パパーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」と叫び机の下から滑り出てくるモーツァルト。
父親が死んだ時とは違う、甲高い子供の悲鳴のような叫び声。
「パパぁ...どこにいるのぉ?...僕はここだよォ...?パパー...♡」
人が壊れしまう瞬間を目の当たりにして戸惑うサリエーリ。
振り返りサリエーリを見つけるて嬉しそうに
「....!!(嬉しそう)...パパ~、抱っこして~』と甘える。
驚いて固まって後ずさりするサリエーリ。なおもじりじりと父親を求めてサリエーリに近寄るモーツァルト。
「ほらぁ、その手を広げてくれたらさ、いつもみたいに飛び込むから…ねえってばぁ...
ほらぁよくやったじゃん、ホップホップじゃ~んぷっ」
と机の上に飛び乗る。
サリエーリがさらに怯えながらも近づき、肩でも揺さぶろうとするも
「ねえ抱っこして?」
モーツァルトの無邪気な甘え声に一瞬ひるむ。
「ねぇキスの歌歌おう?覚えてるぅ?オラーニャ♪フィアガータ♪ファ・マリーナ♪チュッチュ...オラーニャ♪...」
足をぶらぶらしながら子供の声で歌い続けるモーツァルト。もう目に力はなく、どこか地面の一点を見つめている。
そんな壊れてボロボロのモーツァルトの願いを聞き入れサリエーリはモーツァルトを抱きしめる。
モーツァルトはサリエーリにしがみつくようにギュッと抱きつき目をつぶる。
「見よ。深淵なる神の歌声が、赤ん坊の歌声に変わった。人間を引きずり下ろすという事は神を引きずり下ろすという事だ」
素晴らしい作品を作ったが評価されず、満たされることのなかったモーツァルト。
心の潤いを求めて作品を作り続けたその乾きを癒すかのように法要を与えるサリエーリ。
サリエーリの胸の中で泣くモーツァルト。
今までサリエーリの握手も抱擁も無視し、なつくことのなかったモーツァルトをサリエーリは初めて思いのままにすることに成功したのだ。
自分が望んでいたはずなのに傷ついた表情で去るサリエーリ。
壊れたオルゴールのようにキスの歌を歌い続けるモーツァルト。そこへコンスタンチェが帰ってくる。
「......?...スタンツェ、」
ブラブラさせていた足が一瞬止まり、パニック状態の幼児返りから覚めたように見えた。
泣きながら抱擁を交わす2人。
その後もモーツァルトは幼児返りしているが、そこには安心感があり、意図的に幼児返りしてるようにも見える。
「サリエーリにねぇ毒を盛られたんだぁ。サリエーリなんだよぉ...サリエーリが自分で言ってたもん』
とコンスタンツェに訴えかけるモーツァルト。
コンスタンツェは子供をあやすみたいに「そうねぇ、もう大丈夫よ~」と声をかけながらモーツァルトを寝かせ、膝枕をしてあげる。
コンスタンツェの腕の中にいながらも「サリエーリ...!サリエーリだ!」と怯えたように目を見開き叫ぶモーツァルト。
「もう誰も何もしないわ...大丈夫、私あなたの為に帰ってきたのよ、」とモーツァルトを優しく優しく世話するコンスタンツェ。
コンスタンチェは最悪の状況にあるモーツァルトに一生懸命話しかける。
レクイエムが流れ、弱々しく指揮をするモーツァルト。
その眼には光がないがもう恐怖はない。
コンスタンツェが
「あなたと結婚した日が私の人生最良の日だった...」と話す。
私たち観客の頭の中には、下品にはしゃぎ回っていた若き日の2人、彼の「僕の大事な可愛い奥さん」の囁きを聞きながら二人で毛布にくるまった愛おしい時間が走馬灯のように駆け抜ける。
浪費家だったコンスタンツェが、
「家族4人で生きるにはそんなにお金はいらないわ」
「これから私たちにはあなたが必要なの」
そんな未来の展望を優しくモーツァルトに語りかけ励ますその中で、モーツァルトの指揮をする手は徐々に弱まり、愛するコンスタンツェの腕の中でモーツァルトは静かに息を引き取る。
モーツァルトの人生はここまでだ。(続く)